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《コラム》相続は財産だけではありません
◆相続債務にはご注意ください
被相続人が亡くなって相続が開始されると、相続人が集まって遺産分割協議を行います。遺産分割協議で相続財産の分割を受けなくとも、相続債務は引き受けなければなりません。
どういうことかと言うと、両親と子供一人の家族で、アパートを所有していた父が亡くなり、母がその後の生活のためにアパートを相続したようなケースで、アパート建設のための借金が残っていた場合、銀行はその借金の返済をアパートを相続しなかった子供にも請求できます。
債権者にとって、相続人が勝手に決めた遺産分割協議に拘束されることはなく、相続人全員に法定相続分に応じた分割債務を請求できるのです。
そうならない為には債権者である銀行等に承認を得ておく必要があります。
遺産分割協議書は、相続人の間では有効ですが、債権者には意味がありません。
◆心配な場合は相続放棄を
相続財産を受け取らず、相続債務に不安があるときは家庭裁判所に申立てをして相続放棄を受けることができます。
相続放棄を受ければ被相続人の債務に関する追及はありません。
相続放棄は自己のために相続があったことを知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所に申立てしなければなりません。
「知ってから」というのは、相続人と言えども疎遠な場合もあり、知らないうちに相続債務の請求を受けない為の措置です。
◆相続とは権利と義務を引き受けます
相続では財産等権利だけでなく、債務等の義務も相続するのです。
遺産分割協議をおこなう時は財産の分け方ばかりに目が行きがちですが、相続放棄をしないのであれば、債務の引き受け方もきちんと取り決め、債権者の承認を得ておく必要があります。
《コラム》会社分割の要件緩和 創業者の会社貸付金の相続対策
◆会社分割を利用して貸付金の整理
平成29年の税制改正で分割型分割の適格要件が一部緩和されました。その内容はこうです。
単独新設分割型分割にあっては、分割後の株式の保有関係は、分割後にその同一の者と分割承継法人との間にその同一の者による完全支配関係(支配関係含む)が継続することで足り、分割後のその同一の者と分割法人との間の完全支配関係の継続が不要とされました。
そこで、改正後の単独新設分割型分割を利用して創業者の会社貸付金の整理を試みてみます。
◆同族会社と同一の者
この「同一の者」は、親族が単位となりますので、同族会社の場合、親族で株式を保有している例が殆どだと思われますので、いわゆる、会社と同一の者による完全支配関係が成立します。適格要件は満たします。
例えば、甲社は、創業者60%、配偶者10%、子30%の割合で株式を保有されていたとします。この場合、甲社は、「同一の者」による完全支配の関係にあります。
◆創業者の貸付金の整理
具体的な手続きはここからです。甲社は、創業者からの借入金6千万円があり、債務超過でその返済も不能の状態にありますが、現在、事業は縮小しながらも継続して営んでいます。
ここで、甲社は分割法人となり、継続している事業を新設分割により乙社分割承継法人に承継させ、その後、甲社を解散・清算することにしますが、改正後は、同一の者と甲社分割法人との完全支配関係の継続が要件とされませんので、適格要件は満たしており、それは可能と考えます。
甲社は清算の段階で、創業者から6千万円相当額の債務免除を受け、その免除益が計上されることになりますが、既に甲社には残余財産がありませんので、原則として、期限切れ欠損金の利用により、甲社に債務免除益による課税は生じません。
結果として、創業者の会社への貸付金6千万円相当は相続財産から消えます。
但し、創業者の債務免除により当該者から他の株主への「みなし贈与課税」が生ずる余地はあるかもしれません。
なお、この改正は、平成29年10月1日以後に行われる分割から適用されます。